経営問題は数字で考える
・人員を増やせば、利益はアップするのか?
・店舗面積が増えれば、その分利益も増えるのか?
・広告費を使うと、それに見合った利益が得られるのか?
ビジネスの複雑な局面に関する問題は、数字の扱い方次第でシンプルな問題に置き換わることがあります。
現象を抽象化・モデル化して「数字に落とし込む」という手法は、経済学などでも幅広く用いられます。
次のような問題は、売上や費用といった前提となる「数字」さえ把握していれば最適な選択が可能となります。
追加利益法(限界効率法)の考え方
たとえば、「人員を何人増やせば利益が最大化するのか?」という問題を考えるとき、追加利益法(限界効率法)という考え方があります。
追加利益法(限界効率法)では、人員を1人増やしたときに、まず「人件費差引き前利益」がどれだけ増えるのかということに着目します。最終的にそこから人件費を差引いた「正味利益」が最大となる人員数が理論上最適な人員配置となります。
では、具体的に考えてみましょう。
いま、チーズ工場があると仮定します。
現時点での工場の従業員数は10人とします。
1人1日当たりで生産できるチーズの個数は10個とし、
チーズ1個当たりの「人件費差引き前利益」は1千円とします。
また、従業員の日当は8千円とします。
この状況でチーズの生産を行うと、
「10人×10個=100個」
で工場全体の1日当たりのチーズの総生産量は100個となります。
このとき「人件費差引き前利益」は10万円となります。
ここで、工場の従業員を1人増やした場合を考えてみます。
従業員が1人増えると1日当たりで生産できるチーズの個数が、
「11人×10個=110個」
となり、工場全体で110個生産できるようになります。
このとき「人件費差引き前利益」は11万円となります。
従業員を増やしたことにより、工場全体としての生産量が10個増えました。
この増加分から得られる利益が「追加利益」となります。
この場合、従業員を1人増やしたことで「人件費差引き前利益」が1万円増えています。そこから人件費を差引いた「正味利益」も2千円増えますので、この人員追加は成功だったと言えます。
一般的に「追加利益」は一定水準を超えると逓減していく
工場の従業員数を増やしていくと、「人件費差引き前利益」は全体として増加するものの、その増加分は次第に小さくなっていきます。
これもチーズ工場の例で考えてみましょう。
チーズ工場の従業員を11人、12人、13人・・・と増やしていくと、
総生産量もそれに比例してどんどん大きくなっていくのでしょうか?
実際のところそうはなりません。
従業員の増加に比例してチーズの総生産量が増加するのではなく、
従業員が一定数を超えると増加のペースが緩やかになっていくのです。
たとえば、チーズ工場の定員が12人のとき、
13人になると作業スペースなどが不足するため、
1人当たりの生産効率が落ちていくといった現象が考えられます。
チーズの総生産量自体が減るわけではありませんが、
1人当たりの生産効率が下がることにより、追加利益も徐々に減っていきます。
つまり、従業員が一定数以上になると、従業員が1人増えるごとに追加利益は段々と小さくなっていくのです。
正味利益が最大になるポイントを求める
正味利益というのは、「人件費差引き後」の利益です。「人件費差引き前利益 ー 人件費」で求められます。
人員数 | 1人当たりの生産数 | 総生産数 | 人件費差引き前利益 | 人件費 | 正味利益 |
---|---|---|---|---|---|
10 | 10 | 100 | 100,000 | 80,000 | 20,000 |
11 | 10 | 110 | 110,000 | 88,000 | 22,000 |
12 | 10 | 120 | 120,000 | 96,000 | 24,000 |
13 | 9.9 | 128.7 | 128,700 | 104,000 | 24,700 |
14 | 9.8 | 137.2 | 137,200 | 112,000 | 25,200 |
15 | 9.7 | 145.5 | 145,500 | 120,000 | 25,500 |
16 | 9.5 | 152 | 152,000 | 128,000 | 24,000 |
「人件費差引き前利益」の増加分が「人件費」の増加分を上回る状態から下回る状態に移り変わるポイントで正味利益が最大となります。
こうして正味利益が最大となるポイントが分かれば、「人員を何人まで増やせば利益が最大化するのか?」といった質問にも答えられます。
このように、投入できる生産要素(ここでは従業員)1単位の追加によって増加する利益に着目して分析する方法を、「追加利益法(限界効率法)」と呼びます。
人員計画や店舗面積の問題など、追加利益法(限界効率法)はビジネスのさまざまな場面に適用できます。